帰ってきたAD日記

2017年4月16日 バックナンバー

腹ペコADの裏側(2)

突然ですが、箸上げというものをご存じでしょうか。番組での料理撮影において、その質感などを伝えるために実際に箸で料理を持ち上げる演出のことです。

たとえばラーメンなどは、スープに隠れて麺がよく見えませんが、箸上げをすると……。
腹ペコADの裏側(2)
腹ペコADの裏側(2)
このように、麺の質感を視聴者に伝えることができます。
 

れじゃぐるのADをしていると、箸上げを任されることがあります。そんな時は、具材とともに料理の魅力も持ち上げるような心構えで挑んできました。この表現は大げさではありません。というのも、箸上げにおいて“手の震え”というのは避けては通れぬ難関です。画面のなかで料理がブルブルと震えていては、美味しさが伝わらないのです。


震えずに箸上げをするのは、意外に難しいです。僕も新人のころは何度となくカメラマンから「震わすな! じっとしてろ!」と怒鳴られました。というか途中からカメラマンが恐くて震えていました。こうなっては、箸を上げるたびにテンションの方が下がるばかりです。
 

悩み果てた僕は、ひとりでに箸上げ拳法を確立し、大分県日田市の特産日田杉から作られたマイ箸を新調、天におわす箸上げの神さまに毎晩祈りました。そのおかげで今では完璧な箸上げを習得しました。今の僕なら広大な砂漠から一粒のダイヤを持ち上げることや、雲海にまぎれた一糸の綿を掴むことだってできる!箸上げ検定があれば文句なしの一級に違いない!
 
腹ペコADの裏側(2)
日常生活に箸上げを取り込んだAD
腹ペコADの裏側(2)
日田市で買ったマイ箸


それなのに、腹ペコADでは、その箸上げをすることができない事が判明したのです。
 
実はこの腹ペコADが行く!というコーナー。撮影班は僕一人だけなのです。そこまで忠実にコーナータイトルを守らんでも!と突っ込みたくなるくらい一人なのです。
 

 
腹ペコADの裏側(2)
撮影機材もひとりで持ちます

箸上げには、カメラを回すスタッフと、箸を上げるスタッフ、最低でも二人が必要になります。一人での撮影で箸上げは到底できません。
 
腹ペコADの裏側(2)
画:AD軸丸

無理やり撮影と箸上げを両立する力技も考えましたが、リハーサルの時点でこのプランを成功させるには腕が二メートル必要だということがわかりました。
 

僕は天におわす箸上げの神さまを恨めしく思いました。成す術はなく僕はただ泣き寝入りするしかありませんでした。結局、何の解決策も浮かばないまま、撮影日を迎えてしまったのです。
 

ところがどっこい。
 

後日、腹ペコADの放送を見た番組関係者からこう言われました。「箸上げ、美味しそうだったね」と。
 

そうなんです。成す術がなかったはずの箸上げの映像が、確かにオンエアされていたのです。
腹ペコADの裏側(2)
実際に放送された映像
果たして、どのようにして箸上げは行われたのでしょうか。その証拠となる写真がこちら。
 












腹ペコADの裏側(2)


箸をあげる店主

 
こうして無事、腹ペコADでも箸上げの映像を放送することができたのでした。

しかし箸は上がりましたが、今度はお店の方々に頭が上がりません。
 
 
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